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「水音に包まれる、雅なる夏──歌人にも愛された貴船の川床文化」

 

京都・貴船の川床。

川音、風の気配、器に映る光──すべてが感性に寄り添うように用意された、上質な静の舞台。

自然と共生する京の美学は、歴史、建築、料理、空間演出の細部にまで息づいています。

川床とは、夏の盛りに川のせせらぎの上やほとりに設けられる特別な座敷のこと。

涼を楽しみながら料理をいただく、日本ならではの贅沢な納涼文化です。

京都の「おもてなしの粋」に触れる、上質な夏の過ごし方として、京の奥座敷・貴船で育まれた川床をご紹介します。

都人の心をとらえた貴船の涼と静けさ

かつて都人に愛された避暑の地、貴船。

木々の間を縫う風、川音に包まれる静けさ──その凛とした涼気は、今も変わらず訪れる人の心をやさしくほどいてくれます。

貴船の歴史は平安時代に遡ります。貴族たちが霊験あらたかな貴船神社と鞍馬寺への参拝を兼ねてこの地を訪れ、清らかな水辺で涼を楽しんでいました。

平安時代後期から鎌倉時代初期にかけて活躍した歌人・藤原俊成は「貴船川 玉散る瀬々の岩浪に 氷を砕く秋の夜の月」と詠んでいます。

また、平安時代中期の女流歌人・和泉式部も貴船神社に参詣し、恋の成就を祈ったことで有名です。

彼らは貴船の自然と静謐な空気に魅了され、その美しさを随筆や歌の中ににじませました。

涼を誘う京の設えに触れる

そんな貴船で生まれたのが、川床という文化です。

谷を流れる貴船川に沿って架けられた川床は、まさに自然と一体となった設えです。

川面に映る緑、風に揺れる草花、苔むした石畳、そしてそっと灯る和紙の行灯──空間のすべてが調和し、訪れる人の感性を静かに包み込みます。

床の高さや角度には、涼を引き出すための繊細な工夫が凝らされています。

川の音や涼風を間近に感じられるよう、床はできる限り低く設えられ、座ると自然に視線が水面へと導かれるように設計されています。

さらに、風が通り抜けやすい開放的な構造や、木立や布の軒が日差しをやわらかく遮るなど、細部にまで京の美意識が宿っています。

器と香に季節を映す川床料理の魅力

川床で供される料理もまた、自然と季節を映し出す「食の芸術」です。

初夏の若鮎は香ばしさと涼感をまとい、梅雨明けには氷に浮かぶ鱧が梅肉や酢味噌とともに、口の中でふわりとほどけていきます。

盛夏には鱧しゃぶや旬菜の冷やし鉢が五感を潤し、初秋には松茸の土瓶蒸しや炊き込みご飯が、立ちのぼる香とともに季節の深まりを届けてくれます。

器や盛り付けにも、料理人の美意識と遊び心が息づいています。

南部鉄器の土瓶、信楽焼の小鉢、季節の草花をあしらった八寸──その一皿一皿が、視覚と味覚に静かな余韻を残します。

記憶に残る川床体験を──名料亭の粋

貴船の川床文化を体感するなら、空間・料理・設えのすべてにおいて「本物」を味わいたいものです。

たとえば「貴船 右源太」は、昭和37年に先代が宿と食事処を創業。

四季折々の庭園と調和した佇まいが美しく、苔庭に寄り添う静謐な空間のなかで、格式ある京懐石を堪能できます。

庭を眺めながらいただく料理は、庭の四季をゆっくり味わうような体験。

伝統を大切にしながらも、新しさをやわらかに取り入れる姿勢も魅力のひとつです。

旬の野菜にハーブの香りを添えたり、器に北欧作家の陶芸を用いるなど、随所に遊び心と現代性が感じられます。

「貴船 ひろや」は、昭和7年創業の老舗料理旅館。

椅子席の川床でゆったりと食事が楽しめ、夕暮れには行灯と水面の揺らぎが織りなす静かな美しさが広がります。

枯山水を思わせる鮎の盛り付けや、氷の器で供されるお造りなど、涼やかな演出もこの店ならではです。

「奥貴船 兵衛(ひょうえ)」は、貴船川の最上流に位置し、川音と静けさに包まれる特別な一軒。

名物の鮎の笹焼きや、湧き水で冷やした氷室そうめんが、涼を極めた一皿として供されます。

人の気配がほとんど届かないその空間には、日常から遠く離れた、深い静寂が広がっています。

貴船神社と鞍馬寺──美の源泉を巡る

川床の魅力をより深く味わうなら、この地に根づく祈りの場にも立ち寄ってみてください。

水の神を祀る貴船神社では、清らかな流れとともに育まれてきた精神文化に触れることができます。

御神水に手を添え、千年続く「水と祈り」の文化を静かに感じるひとときは、感性を澄ませる特別な体験となるでしょう。

さらに少し足をのばせば、山の向こうには杉木立に囲まれた鞍馬寺が静かに佇みます。

本殿から望む景色と深い静寂が、思考をそっと手放すような豊かな時間をもたらしてくれます。

食と信仰、自然と空間──

貴船・鞍馬で過ごすひとときは、心と場が静かに重なり合う、京都ならではの美の哲学に触れる体験となるはずです。

貴船で出会う心の静寂

京都・貴船に受け継がれる、「静けさの美」。

それは、流れる水や風とともに、時間の豊かさを味わう「おもてなし」の姿です。

この夏、喧騒を離れ、川音に耳を澄ませてみてはいかがでしょうか。

何気ないひとときが、心に深く染み入る旅となるかもしれません。

基本情報

〇貴船 右源太(きふね うげんた)

住所:京都市左京区鞍馬貴船町76

営業時間:

昼 11:30~16:00(L.O.15:00)

夜 17:00~22:00(L.O.19:00)

定休日:不定休(川床期間中の5月~9月は無休)

アクセス:叡山電鉄「貴船口駅」より送迎バスあり(要事前連絡)、JR「京都駅」から車で約50分

電話番号:075-741-2146

公式サイト:https://www.ugenta.co.jp/

〇貴船 ひろや

住所:京都市左京区鞍馬貴船町56

営業時間:11:00~21:00(最終来店19:00)

定休日:不定休

アクセス:叡山電鉄「貴船口駅」よりバスで約4分、終点下車後徒歩約5分(送迎あり、要問合せ)、名神高速「京都南IC」から車で約1時間

電話番号:075-741-2401

・奥貴船 兵衛(ひょうえ)

住所:京都市左京区鞍馬貴船町101

営業時間:

昼 11:00~13:00(L.O.12:15)、13:30~15:30(L.O.14:15)

夜 18:00~(フードL.O.19:00、ドリンクL.O.19:45)

定休日:不定休(夏期は無休)

アクセス:

叡山電鉄「貴船口駅」より徒歩約40分、または車で約10分(送迎あり、要予約)

京都市営地下鉄「国際会館駅」より送迎バスあり(要予約)

電話番号:075-741-3066

公式サイト:https://hyoue.com/

・貴船神社

住所:京都市左京区鞍馬貴船町180

参拝時間:

5月1日~11月30日:6:00~20:00

12月1日~4月30日:6:00~18:00

授与所受付:9:00~17:00

定休日:無休

アクセス:

叡山電鉄「貴船口駅」下車、京都バス「貴船」行きで約4分、終点下車後徒歩約5分

JR「京都駅」から車で約40分

電話番号:075-741-2016

公式サイト:https://kifunejinja.jp/

・鞍馬寺

住所:京都市左京区鞍馬本町1074

アクセス:

叡山電鉄「鞍馬駅」下車すぐ

JR「京都駅」から地下鉄烏丸線で「国際会館駅」下車、京都バス「鞍馬温泉行き」で約25分、「鞍馬」下車

公式サイト:https://www.kuramadera.or.jp/

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嶋さあや

京都市左京区在住。京都生まれ京都育ちで、大学事務員を経て、フリーライターとして活動しています。美食や伝統、暮らしに関する取材を得意とし、京都ならではの文化や歴史、人々の魅力を伝える記事を執筆しています。

  1. 「水音に包まれる、雅なる夏──歌人にも愛された貴船の川床文化」

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